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高森明勅
2020.7.17 06:00皇室

日本書紀編纂1300年の日本教師塾

今年の日本教師塾では、「日本書紀」と「道徳」を
テーマに選んだ。
現役の先生方の自主研修としては、
ややユニークなテーマ設定かも知れない。

今年が日本書紀が編纂(へんさん)されてから丁度(ちょうど)1300年を迎える(日本書紀の成立は養老4年=西暦720年)こと、又(また)、教育勅語が下されて130年になる(教育勅語の下賜〔かし〕は明治23年=西暦1890年)こと、それらにちなんでテーマを決めた。

来る7月18日は、全3回予定の第1回目。
卓越した力量をお持ちのW先生による、日本書紀を取り上げた
モデル授業(1コマ)と、私の講義(2コマ)という組み合わせ。
それに先立って、ここでは些(いささ)か唐突ながら、
大川周明の『国史読本』(昭和6年刊行)からの引用を掲げておく。

もう、半世紀ほども前になるだろうか。
私が中学生の頃に読んで、深い感銘を覚えた
(漢字が正字で、振り仮名も付いていないので、
当時は読むのに些か苦労したが)。「吾等(われら)は
永遠より永遠に亘(わた)る日本的生命の一断面である。意識すると否(いな)とに拘(かかわ)らず、
吾等は国民総体としても、はたまた個々の日本人としても、
実に日本歴史の全体を宿(やど)して此(この)世に立つて居(い)る。

今日(こんにち)の日本を知らずして、明日の日本を察し難き
如(ごと)く、過去の日本を知らずしては、今日の日本を
知るべくもない。
吾等が現に生きつつある国家、並(ならび)に吾等自身を正しく
把握するためには、必ず国史を学ばねばならぬ」

「歴史はまさしく吾等の如実(にょじつ)の姿を知るべき鏡であり、
歴史を学ぶことは真個の自己を知る所以(ゆえん)である。
真個の自己を知ることなくしては、正しき行動も固(もと)より
不可能である」

「如何(いか)なる世、如何なる国といはず、改造又は革新の必要は、
国民的生命の衰弱・頽廃(たいはい)から生まれる。
生命の衰弱・頽廃は、善なるものの力弱り、悪なるものの横行跋扈
(ばっこ)するによる。
故(ゆえ)に之(これ)を改造するためには、国民的生命の
衷(うち)に潜む偉大なるもの・高貴なるもの・堅実なるものを
認識し、之を復興せしめることによつて、現に横行しつつある邪悪を
打倒しなければならぬ。
簡潔に言へば、改造又は革新とは、自国の善を以(もっ)て
自国の悪を討つことでなければならぬ」

「建設の原理は、断じて之を他国に求むべきに非(あら)ず、
実に吾衷(わがうち)に求めねばならぬ。
而(しか)して吾衷に求むべき建設の原理は、唯(た)だ
自国の歴史に学ぶことによつてのみ、之を把握することが出来る」

「吾国に於(お)ける最初の且(かつ)根本の歴史は日本書紀である。
而して何故(なにゆえ)に朝廷が此の歴史を編修されたかを
知ることは、国家と歴史の関係、従つて歴史の重要性を明らかに
する上に、極めて肝要なることである。
第一に国史の編修は、国民的自覚の所産である。
自覚は反省を伴ふ。
日本書紀はまさしく強大なる国民的自覚並に反省の所産である。
然(しか)らば其(そ)の自覚は如何にして生まれたか。
そは日本民族の発展が、一定の程度に達せるためなりしことは
言ふまでもないけれど、此の内的事情の外(ほか)に、
直接にして有力なる外的刺戟(しげき)ありしが故である。
その刺戟とは、取りも直さず支那(しな)との接触である。
我(が)の確立は、非我(ひが)との対立に待つ。
そは個人の場合に於ても民族の場合に於ても同然である。
日本は支那との接触によつて、初めて強大にして明確なる
国民的自覚を生じた」

「吾国(わがくに)は支那と交通して、推古天皇以来盛んに
隋唐文明を摂取し、大化革新の如き、うち見たるところは
恰(あたか)も日本を以て小支那たらしめたるの観がある。
それにも拘らず日本が秋毫(しゅうごう)も昔乍(なが)らの
日本(やまと)魂を失はざりしことは、当時吾国の支那に対して
採(と)れる態度に徴して明白である。
聖徳太子が隋のヨウ(火+易)帝(ようだい)に対して
『日出処(ひ・いずるところ)の天子、書を日没処(ひ・ぼっするところ)
の天子に致す、恙(つつが)無きや』との国書を送れる如き、
天智天皇が百済(くだら)を援(たす)けて大唐帝国と戦へるが如き、
それが当時に於ける最も熱心なる隋唐文明の採用者なりしだけ、
それだけ吾等をして感激に堪(た)えざらしむるものである」

「かくの如く支那と接触し、その文明を採用すると共に、
国民的自覚もまた強大となれるが故に、日本建国の由来並に精神、
これに伴ふ国体の尊厳を内外に明示するため、
朝廷に於て国史の編修が企てられたのである」

―当日は、様々な参考文献と共に、雨が強くなければ、
10~11世紀頃に書き写されたと見られている、
いわゆる岩崎本「日本書紀」(国宝)の巻第22(推古紀)の
極めて精巧な複製本なども、会場に持参したいと考えている。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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